名器・開鐘の音作り

 開鐘の材質は、それほど良い材料を使っているわけではない。逆に西平開鐘と富盛開鐘は波うった
木(巻き木)が使われている。しかも富盛開鐘の材料はユシ木で、黒木さえ使っていない。今の三線
屋が悪い材料といって使わない「巻き木」で作られた三線が「開鐘」と名がついて現代まで伝わって
いる事実は、三線の良し悪しが材料で決まらない証拠である。
 名器や開鐘といわれる三線は偶然できた物ではない。「どういう音を作り出すか」がまずあって、
型を決め材料を選定し、その音を出す為の技術を注ぎ込んで作られているのだ。

 では名器といわれる三線の技術とは一体何だろう。様々な技術があるが、図で見てわかりやすい事
から説明してみたい。まずは野の長さである。
 戦後から現在まで作り出されている三線の寸法は野の長さ「一尺五寸八分」が基準になっており、
数多く出回っている外国産の安い三線から高価な三線まで、全くと言っていいほど同じ寸法になって
いる。木から出てくる音だけをみているのだろう。
 それに対して先達の三線は短く一尺五寸三分から一尺五寸六分に納まる。開鐘の野の長さを比べて
みる。(湧川開鐘は戦後修理されているため元々の寸法は不明)

       西平開鐘  一尺五寸六分
       盛嶋開鐘  一尺五寸四分五厘
       翁長開鐘  一尺五寸三分
       志多伯開鐘 一尺五寸三分
       湧川開鐘  一尺五寸八分(湧川開鐘は戦後修理されているため元々の寸法は不明)


 野の長さが短いだけでなく棹の太さも現在の三線より細くなっている。長い間寝かした材料を細く
絞ることで音の“ゆとり”を作り、野の長さを短くして生き生きとした「めりはり」のある音を作り
出している。

野の長さ

 次は心の作りを考えてみたい。まず心の上り下がりである。
心上りの三線はばちをはじいた時に静かな音を出す。西平開鐘の心の作りである。
心下りは立ち上がりのある、力強くゆとりのある音を出す。翁長開鐘や拝領南風原の心である。

心の作り1

 心を立てるか寝かすかでも音は変わってくる。
西平開鐘・翁長開鐘・志多伯開鐘は心がねており、柔らかく・やさしく・ゆとりのある音が出る。
 現在は心を立てるのが一般的になっているが、力強いけれども硬い音となる。

心の作り2
 
 ここで西平開鐘の材料が「巻き木」であるという事を思い出していただきたい。
柔らかく・やさしく・ゆとりのある音のを出すために、あえて悪いとされる材料を選択したとしたら
野の長さ・心の上がり・心の寝かせといった工夫と矛盾がなくなる。
 王朝時代の三線の音は、現代人の求める甲高い音とは異なる事が明らかとなった。

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