名器を現代に

棹の材質
 求めた黒木は最低でも二十年以上寝かしている。ただ寝かすのでなく、その黒木をもっと良い材料
にするために昔から伝わる方法を行っている。
 伐採した黒木を三年間くらい田や海に漬けてあくを抜き締まりを出し、さらに長い年月をかけて陰
干ししたり床に敷き込んだりするのだ。手間ひまを惜しまずこの方法で二十年余管理してきた材料で
三線を作ってきた。ここまでの材料の管理をしている三線屋は少ないだろう。
 この方法によって材質は締まって密になる。私の作る三線は現代の三線より細く短いので、最高に
乾燥させた黒木が必要になる。それを作る型に向けて徐々に絞り込んでいく。棹を完成させても棹に
に季節の移り変わりを体験させ、尚一層乾燥させる為に時間の許す限り空気に触れさせる。より良い
振動を立ち上げるために考えられることは全て実践している。
棹
美しい曲線を描く「拝領南風原」の 棹




胴(チィーガ)
 私は棹と胴は夫婦のように生涯一緒でなければ
ならないと思っている。求める音を棹で作り、胴
はその音を拡大するものでなければならないので
棹の振動を受け止めるに相応しい胴が必要となる。
例えば盛嶋開鐘の棹には、盛島開鐘の胴が必要で
違う型の胴がついたら盛嶋開鐘の音は半減する。
 ちなみに私は胴も長い間寝かすようにしている。
蛇皮も十年以上なるべく長く寝かしたものを使っ
ている。そうする事によって蛇皮の繊維が強度を
増してくる。見た目は少し赤っぽくなるが雨天の
時でも音の変化が少なくなる。
またその良い音を半永久的に楽しめる張り方の研
究も進んでいる。蛇皮は通常良い音が出始めると
切れる場合が多いが切れないでさらに音が良くな
る可能性を秘めている。
胴

半丸鑿で 彫り込む「西平」の胴

カラクイ

 カラクイには手間ひまかけて作った棹をより一層際立たせる風格と美しさが必要である。それと扱
い易さである。その為に棹にカラクイをあてながら段差をつけないで仕上げている。また全体のバラ
ンスをとる為直線で構成された棹には直線的なカラクイ、曲線で構成された棹には曲線的なカラクイ
と八種類のカラクイを手作りしている。

カラクイ6 カラクイ1
カラクイ2
カラクイ8
カラクイ4
カラクイ5
カラクイ7
カラクイ3

ティーガ

 王朝時代に作られたといわれるティーガを見せていただいた事がある。中国の王様から拝領した服
が琉球国王には大きかったので、それを直した時の余り生地で作ったティーガだと教えていただいた。
大変に美しくこれを再現しようと考えた。しかし現在のティーガはミシンで大量生産される物ばかり
で、カーテンの余り生地であったり、台湾風であったり、ミンサー織りなどの庶民的な物で参考にな
る物は全くなかった。
 首里城のような豪華絢爛の場所においても引けを取らないティーガを目指したので、何度も首里城
に足を運んで色彩を学んだ。龍や鳳凰が舞う絹の生地を探し求め、その 生地を金糸で縫い止める昔な
がらの方法で再現する事ができた。
 手作りの為一枚仕上げるのに一週間程かかってしまうのが難だが、棹・胴・カラクイを一つの作品
としてまとめあげる役割を担っている。
ティーガ

ばち
 現在の撥は外国産が主流になり、型そのものが崩れてしまっている。それと共に撥の重要性を認識
する人が少なくなってきているように思うのは、私の思い過ごしだろうか。せっかく作った三線の音
を殺してしまう事も、またさらに良くする事もできるのがばちであり極めて重要な要素である。
 伝統的な型のばちは大変美しい。左御紋の一つを横から見た型で握りも良く弾き易く、柔らかく優
しい音を出す事ができる。弾き手が撥さばきを気にせずに唄に集中する事ができるのもこのばちの良
さである。
 私は伝統的な型が失われないように、三線と同様に後生に残してゆかなければならないと強く心に
誓っている為、三線をお客様に手渡す時は、ばちもセットでお渡しするよう努めている。
三線とばちがピタリと合ってはじめて完成した音作りが提供できると考えているからだ。

ばち
前のページ
はじめのページ
次のページ